TOTOの魂の源泉「どうしても親切が第一」は不変の絆
2025年4月1日にTOTOグループ18代社長に就任して以来、経営方針をグループ員に伝えるために全国の拠点を訪問してきました。対話するほどに実感するのは、初代社長の大倉和親が2代社長 百木三郎に送った書簡にある「どうしても親切が第一」という言葉の誇らしさ。この「先人の言葉」こそ創業の魂、社是や企業理念の源泉の源泉として、TOTOグループ員約35,000人の心を一つに結ぶ不変の絆です。世界中のグループ員が理念を胸に刻み、日ごろから仲間と熱く話し合う姿はTOTOならではだと感じます。この言葉の核は、「親切」というシンプルな一語にあります。親切とは人の役に立つこと。TOTOが世の中に対して何をすることが親切なのか、私は繰り返しグループ員に問うてきました。企業としてどんな分野において親切でありたいか、それを定義づけたものが「共通価値創造戦略 TOTO WILL2030」(以下、WILL2030)に掲げる3つのマテリアリティ「きれいと快適・健康」「環境」「人とのつながり」。社会やお客様の役に立つことがTOTOの存在意義であり、私たちがここにいる意味なのです。
書簡には「良品の供給、需要家の満足が掴むべき実体」という言葉が続き、利益は需要家の満足を得たことの「影」にすぎないと初代社長は説いています。その利益を次はどんな「社会の役に立つこと」に投じるか、その判断が重要です。例えば、陶器の焼成プロセスにおいて排出されるCO₂を削減するため、水素を燃料にした窯を研究することは優先したい課題の一つ。グループ員への方針説明会で事業の業績よりも前にCO₂排出量削減や節水の成果を明示するのは、私たちが何のために事業活動を行うのかという目的と企業理念の共有を徹底するためです。
一人ひとりが成長の「軸」を持って、仕事に喜びを
社長就任後の初仕事は入社式でした。式辞で、新しく仲間になる皆さんにどうしても伝えたかったのは、「自分だけの軸を持って、そこから枝葉を伸ばしていってほしい」というエールの言葉です。一人ひとりがプロフェッショナルとして誰にも負けない自信を持てる領域を見つければ、それが自分の成長の原点、つまり「軸」となります。私の「軸」となった仕事について振り返ると、1本目の軸はウォシュレット生産本部でエンジニアとして関わった、障がいのある方に向けた商品の開発でした。交通事故で四肢不自由になり、介助なしでトイレに行くことができなくなった20代女性の協力を得て、「洗う・流す・止める・乾かす」の4つのボタンがついた「らくらくリモコン」を開発しました。試作品を使った女性は、「介助なしで用を足せた」と泣いて喜んでくださいました。たった一人だけかもしれないけれど、目の前の一人の役に立つことができ、その方の人生が変わるかもしれないと感じました。この経験により仕事の喜びと責任に目覚め、「どうしても親切が第一」という言葉が腹に落ちました。
もう1本の軸は、2011年からTOTOベトナムの社長を務めたことです。当時は、現地社員の定着率も生産の歩留まりも低く、心がバラバラでした。「みんなで一つになったら仕事は楽しくなるぞ」と新しい風を吹き込みたいと考え、設立10周年イベントで「TOTO」の人文字をつくろうと呼びかけました。バス40台で国立競技場に集合した2,000人がわずか10分で人文字を完成させ、招待していた彼らの家族2,000人から惜しみない拍手を受けました。準備段階から綿密なコミュニケーションを重ねたことによる成功体験を通じて、社員たちは「人を喜ばせることが自分たちの喜び」と気づくとともに、みんなでひとつのことを実現させる達成感に気づいたと思います。彼らはTOTOに誇りと愛着を感じ、現場でいきいきと働くようになりました。企業理念をよりわかりやすい「All for customer(すべてはお客様のために)」という言葉で表現し、あらゆる場面で「本当にお客様のお役に立てているか?」「自分のお客様は誰か?」と考えるよう促した結果、定着率も歩留まりも改善したのです。帰国時にはTOTOベトナムの社員全員が列をつくってくれるというサプライズ演出で見送られ、「この仲間と働けてよかった」と感激しました。TOTOグループを率いる上でも、人の役に立つ仕事の喜びや助け合って働く楽しさを世界中のグループ員と共有していきます。
本音の議論でアイデアとスピードを磨き、より強い集団へ
WILL2030は、今年度が折り返し地点です。各事業において、うまくいっているところとそうではないところが明確になっています。それぞれの背景を精査・分析すると、「変化に即応するスピード」が成否を分けているとわかりました。2030年度目標として掲げる「売上規模1兆円以上」は単なる理想値ではなく、世界中のTOTOファンの満足の総和として目指すべき数字であり、私たちなら達成できると信じています。道しるべである目標は変えず、方法論は柔軟かつ躊躇せず修正し、事業構造を改革しながら全力疾走します。より速く走るには、「誰をどう喜ばせたいのか」を意識してあらゆるニーズを想定し、先手となる選択肢を用意することが必要です。住設事業とセラミック事業ではスピードが異なりますが、ニーズの先読みと打ち返しの速さというポイントは共通しています。AIの進化も掛け合わせて提案のスピードを速めることが勝ち筋となります。だからこそ、知見とアイデアを持つ「人」がTOTOの命なのです。強い「個」と「個」が、「どうしても親切が第一」という信念のもとに本音をぶつけ合い、密なコミュニケーションを繰り返すことで「集団」として強くなります。組織の方針を定める経営体制の顔ぶれも新しくなりました。私は若輩ですが、発言も行動も遠慮しません。役員が年齢や経歴によらず心の底を見せ合って本音で議論することは、意思決定や戦略執行のスピードを高め、TOTOグループをより強くする追い風になると考えています。私は国内外の拠点で組織の劇的な変化を何度も見てきました。約35,000人のグループ員から知見とアイデアが溢れ出せばTOTOの進化は無限大です。
また、「スピード感」「本音の議論」の前提として、最小の投下資本で成果の最大化を図る効率性の追求は欠かせません。資本効率を意識して一人ひとりが改善を重ねる、全社横断の「ROIC改善活動」によって収益性を高める取り組みも強化します。
TOTOの根幹を成す日本住設事業をあるべき姿に
日本住設事業と中国大陸住設事業の立て直しが最大の課題だと考えています。強い決意を持ってこの両エリアを立て直し、TOTOグループ全体の成長を支える基盤とすることで、WILL2030の目標達成を実現します。
基幹事業である日本住設事業は、継続的なコストリダクションや機動的な価格改定の成果は着実に出ている一方で、各コストアップなどの影響により利益率が低下している状況を脱却し、収益率の向上を目指します。サステナブル高付加価値商品の販売と「あんしんリモデル」の進化、生産性向上のための施策を加速させ、外部要因に左右されない高収益体質にシフトします。日本で新築住宅市場がピークを過ぎた1993年、TOTOは時代に先駆けた「リモデル宣言」によって住宅ストック市場に成長戦略の舵を切り、以来リフォーム需要の開拓を牽引してきた自負があります。これからも日本のトップブランドとして、いち早く「まだ見ぬ価値」をお客様にお届けし、社会にインパクトを与え続けます。
新商品で「デイリーウェルネス」の未来を広げる
マテリアリティの「きれいと快適・健康」を実現する一手として8月にウォシュレット一体形便器の新商品「ネオレストLS-W/AS-W」を日本で先行発売し、市場から熱く注目されています。新機能「便スキャン」で自動計測した便のデータを、新サービス「TOTOウェルネス」(スマートフォン向けアプリ)で確認できる、健康に寄り添うデイリーウェルネスの新提案です。トイレを入口に健康への気づきを得る習慣が定着すれば、トイレという「場」の持つ意味が変わってきます。いつもどおり暮らしながら無理なく続けられるところが、実にTOTOらしい「親切」な発想だと思います。「ワクワクする新たな体験価値をお客様にお届けすること」はWILL2030の目指す姿の一つであり、キッチンや浴室への展開も見据えてデイリーウェルネスの可能性をさらに広げていきます。
TOTOファンの信頼を光に、中国大陸住設事業を立て直す
中国大陸住設事業は、市場の急速な変化への対応が遅れ、収益性低下を招いたことを大いに反省しています。反転攻勢の第一歩として、リモデルを中心とした強みを活かせる領域にリソースを集中させるほか、衛生陶器工場4拠点中2拠点を停止し生産体制を再編します。生産・販売・商品における構造改革によって安定的な収益構造へ事業転換を図り、まずは2026年度の黒字化を短期目標とし、2030年度には利益率の改善を狙います。
長引く市況の冷え込みと業績低迷を理由にした事業撤退をするつもりはありません。日本で培った知見をもとに、より多くのお客様のお役に立ちたいという志を持って中国大陸に進出したのが1985年。以来、40年にわたって地元政府、現地パートナーや優秀な現地社員の支援のもとに築き上げてきた、ブランドと事業の成長に大きな誇りを感じています。今日まで、「どうしても親切が第一」という志を熱く語る現地の仲間とともに品質・機能・サービスを磨き、中国大陸のお客様から圧倒的な信頼をいただくブランドに成長してきました。長らく商品を使ってくださるお客様から寄せられた、「TOTOが大好き」「使ってよかった」という多くの声に育てられてきたのです。お客様が寄せてくださる信頼は、私たちが事業を立て直していく上での希望の光。今後も愛され続けるために抜本的な構造改革に汗を流していきます。
米州住設事業の夢が実を結び、成長エンジンへ
一方、米州住設事業が成長軌道に乗り、力強い加速を見せています。「コロナ禍でウォシュレットが売れたから急伸長したのでは?」と指摘されることもありますが、一朝一夕で生まれた成果ではありません。米州進出当初はコマーシャル活動や顧客接点づくりに苦戦し、ウォシュレットが市場に受け入れられるまで長い時間がかかりました。そのようななかで人と資金を投じて価値を伝え続けた地道な「種まき」が奏功して、ようやく成果として実を結び始めたのです。ウォシュレットの使用経験をSNSで発信するお客様が増え、需要増加を生む下地となりました。また、ギフトシーズンには大手eコマースの人気ランキングに入り、住宅購入時以外にギフトという購入動機が生まれたことには、TOTO U.S.A., Inc.の社長を務めた私も驚きました。
お客様に商品を買っていただくことは、終わりではなく長いお付き合いの始まり。「どうしても親切が第一」を体現するサービスマンは、最前線でブランドの信頼を守る要です。既に人口30万人を超える63都市圏で、ショールームや小売店を介した顧客接点をつくるだけでなく、アフターサービスのネットワーク拡大も実現してきました。これは、お客様の商品選びから取り付けや修理までトータルにサポートし、いつでもTOTOを頼りにしていただける環境を構築する挑戦です。米州に限らず、競合との熾烈な戦いを勝ち抜いて私たちが成長するためには、アフターサービスが極めて重要。今年、北九州の本社にて行われた「第2回ワールドサービスマスターズ」では米州エリアの代表も含め、世界中の予選を勝ち抜いた優秀なサービスマンが集い、技術や接客に対する向上心を刺激し合いました。今後もさらなる成長加速に向けて商品とサービスの質を高め、グローバル住設事業の成長エンジンとして一層飛躍します。
各国市場が秘める成長のポテンシャル
米州に次いで勢いのあるアジア・オセアニア住設事業は、インド・ベトナムのように平均年齢が若く成長が期待できる地域、台湾地域、オーストラリア地域のような先進地域、サウジアラビアのように多くの巨大プロジェクトが控えている中東地域などの集合体です。今後のさらなる成長に手応えを感じています。
欧州住設事業は2024年度に念願の現地法人としての黒字化に成功。ドイツ・フランクフルトで行われた世界最大級の国際見本市「ISH 2025」では、欧州の老舗メーカーと肩を並べました。ドイツではプランマーとの協業を深め、イギリス・フランスでは5つ星ホテルへの納入実績を重ね、トレンドの発信地で存在感を高めていることに意義があります。
ニーズの先読みと生産改革でセラミック事業を高収益化
セラミック事業は、2024年度営業利益が前年同期比86%増と急拡大し、TOTOの揺るぎない柱に成長しています。衛生陶器・水栓金具などの水まわり商品の生産によって培った技術を活用し、高精度なセラミック技術へ進化させてきた約40年の挑戦が、オンリーワンの強みに昇華できています。静電チャック・AD部材・構造部材など半導体製造装置向けの製品を広く手がけ、変動の激しい半導体市場においても事業の安定性や成長性を保ってきました。半導体市場特有の変化のサイクル、開発や生産の苛烈なスピード競争に翻弄されないためには、お客様へタイムリーに提案できる選択肢を用意しておくことが重要。ニーズの先の先、さらにその先を読んだ技術開発や製品が生命線となります。生産と開発部門の間で本気の議論を重ね、お客様と緊密な連携を図ることが、よりスピーディな革新に直結します。伸び盛りの半導体市場の将来を見据え、研究開発体制とスマートファクトリーの進化に積極投資し、さらなる成長を目指します。
豊かな未来社会の創造とTOTOの発展のための投資
財務戦略は、「何のための投資か」という目的から優先度を判断します。TOTOの経済価値向上のために投資を集中させたいのは、成長セグメントの事業です。
米州住設事業における高効率の衛生陶器生産設備の導入や、セラミック事業では市場成長に追随するための生産増強や次世代製品の開発の投資など、将来の事業成長に向けた投資を躊躇なく進めていきます。一方、社会的価値・環境価値を高める目的から考えれば、2050年のカーボンニュートラル実現に向けたCO₂排出の削減に向けた投資も不可欠です。この考え方の根底にあるのがサステナビリティ経営です。3つのマテリアリティに取り組み、TOTOならではの価値をお届けする事業活動によって得た利益は、より豊かな社会と地球環境を未来へ手渡す挑戦に再投資します。創立から108年、今後も社会から必要とされ続ける企業であるために、TOTOは価値創造のサイクルを連綿と繰り返しながら成長を続けていきます。
世界中のTOTOファンに、大きな「親切」を届けたい
ステークホルダーの皆様が「応援者」として支えてくださることで、私たちの事業活動が成り立っています。マテリアリティに掲げる「人とのつながり」において、各ステークホルダーの皆様と誠実に向き合い、それぞれの価値向上に努めていきます。
お客様には、きれいで快適・健康な商品とサービスを提供し、生涯TOTOファンでいていただけるよう努めます。株主・投資家の皆様には、事業によって得たキャッシュを配当で還元するだけではなく、資本コストや株価水準などを勘案しながら自己株式取得も実施し、成長投資と併せてEPSの向上に資する適切なキャピタルアロケーションに取り組んでいきます。2025年度は期初時点の手元資金水準や株価水準などを考慮し自己株式取得・消却を実施することにしました。
お取引先様とは、より強固なパートナーシップを築いて、環境や人権に対して取り組む目標を共有し、ともに発展する関係を目指します。地域社会の皆様には、私たちの事業活動へのご理解をいただきながら、地域社会をより豊かにする取り組みを続けます。
TOTOグループの企業価値の源泉は「人」。一人ひとりが仕事に誇りと喜びを感じ、仲間と助け合い長く働ける風土をつくります。私はTOTOグループのリーダーとして、「夢を持ってはじめる、困難にぶつかってもあきらめない、達成するまでやり続ける」ことを旗印に自ら有言実行し、誰もが安心して挑戦できる環境を次世代へつないでいきます。グループ員約35,000人が企業理念のもとに心を一つにして、世界中の国や地域でTOTOファンを増やし、もっと大きな「親切」をお届けしたい。多様な強い「個」が不変の「絆」で結ばれたグローバル集合体として、お客様に向かって全力疾走し、より豊かで快適な未来社会を創造していくことをお約束します。